信託とは、①財産を有する者(委託者)が、②信託法が定めるいずれかの行為(信託契約、遺言、自己信託)に基づき、③特定の者(受託者)に対して金銭や土地等の財産を移転し、④当該受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条1項)。
財産の管理等を依頼する者が委託者
財産の管理等を行う者が受託者
財産の管理等により利益を得るものが受益者 → 受託者は、委託者の依頼を受けて財産を管理し、受益者が利益を得られるようにします
家族信託とは、明文はありませんが、信託関係者が家族で占められている信託です。一般に、委託者が受益者となり(自益信託)、配偶者や子供が受託者となります。不動産管理は予定していないか、予定しているとしても小規模なものが殆どで、委託者兼受益者が亡くなると信託が終了することが多いです。
以下のような場面で、家族信託の利用が考えられます。
①判断能力に問題が生じた場合の財産管理
将来認知症となった場合に、預金が引き出せなくなったり、所有物件を処分できなくなる恐れがありますが、そのような場合に備えて信託契約を締結しておくと、判断能力に問題が生じたとしても、資産管理を継続することができます。
75歳と高齢となったAさんは、自宅で一人暮らしをしていましたが、認知症の不安を抱えていました。Aさんは、仮に認知症となった場合には、所有する自宅(土地 建物)を売却し、介護施設の入居費用としたうえで、その後は介護施設で生活しようと考えています。
そこで、「委託者=受益者」をAさん、「受託者」を離れて暮らす息子のBさんとして、家族信託契約を締結し、今後の資産管理をBさんに委ねることとしました。
②資産の円滑な承継
信託終了時に信託財産を引き継ぐ人を予め指定することにより、円滑に資産を承継させることができます。
Dさんには、妻のEさん、同居する子のFさん、別居する子のGさんという家族がいます。
Dさんは、妻のEさんに財産の管理を委ねるとともに、自分が死んだらEさんに財産を引き継いで貰いたいと考えていましたが、Eさんも高齢であることから、Eさん に何かあったら、Fさんに後を引き継いで欲しいと考えていました。
そこで、Eさんを受託者兼残余財産受益者としたうえで、Eさんが亡くなった場合 に備えて、子のFさんを第2順位の受託者兼残余財産受益者としました。 *残余財産受益者 = 信託終了時に、残余財産の給付を受ける者として指定されている者
③障害がある子の生活の安定を図る
障害がある子がいる場合に、家族を受託者として指定し、毎月一定額を生活費として渡して貰ったり、入院等で多額の金銭が必要となった場合に資金を用意するなどして、障害がある子の面倒を見て貰うことができます。
Hさんには、障害を持ったIさんという子供がいました。
Iさんは施設に入っており、Hさんは、Iさんのためにこつこつと貯金をしていましたが、高齢となり、どこまで資産を管理できるかと不安を持つとともに、自分亡き後Iさんが路頭に迷わないかと心配になりました。
そこで、Hさんは、自分を「委託者」、信頼できる甥のJさんを「受託者」、Iさん を「受益者」として信託契約を締結し、Jさんに、今後の資産管理とIさんの生活費確保を委ねました。
家族信託の手続は次のとおりです。
①信託の枠組みを決定
まずは、「委託者」、「受益者」、「受託者」を決めます。次に、信託の対象となる財産を決定します。 それから、受託者に何をお願いするか(受託者の権限)、どんな場合に信託を終了するか(信託の終了事由)、残余財産受益者を誰にするか、信託の具体的な内容を決定していきます。
②信託契約書の作成
完成した信託の内容を書面にまとめ、完成させます。 その際、書面の紛失、紛争の発生等(委託者の意思に基づいた契約であったかどうかなど)を防ぐために、信託契約書を公証役場で作成することが多いです。
③信託の開始
銀行に信託口座を開設し、受託者が当該口座を管理します。
また、委託者名義の不動産がある場合には、名義を変更します(「委託者」→「受託者」)。
その他、受託者が信託契約書に定める信託財産の管理に必要な行為を行います。
個人の財産管理については、家族信託のほか、法定後見制度、任意後見制度など、様々な制度が用意されています。また、自分に何かあったときのことを考えた場合には、遺言書の作成など、相続に対する準備をしておくことも考えられます。
財産管理にご不安があれば、各種手続のご説明や対応策のご提案をさせていただきますので、お気軽に当事務所にご相談下さい。